幕末異聞―弐―



人気の少ない朝の四条通り。
しきりに聞こえる乾いた砂を地面に擦りつける音。早朝から通りを歩く人々はその音が近づいてくると、素早く道の両端に避けていく。


「…やっぱりちゃんと隊服着てると目立つなぁ」

「そりゃそうですよ。こんな派手な羽織はおった厳つい集団が歩いて来たら誰だって見ますって」

「そうだけどさ、あからさま過ぎない?」

砂埃が立つくらい、道の真ん中を大勢で闊歩しているのは正装をした新撰組であった。
その先頭を行く沖田と藤堂は、伍長を含め二十人程の部下を従えて道を歩きながら、周囲をきょろきょろと伺いつつ緊張感の無い会話をしている。
端に避けた町人たちの顔を見ると、怒っている様な顔でこっちを見ている者があれば、怯えて背を向けてしまっている者もいる。
ただ一つ言える事は、好意を持って新撰組に視線を送っている者は誰一人いないという事だった。


(…嫌な感じ)

藤堂は、不貞腐れたように口を突き出し、眉間に皺を寄せる。


「あ!平助」

「ん?」

突然右隣にいる沖田に名を呼ばれ、何かあったのかと緊張する藤堂。

「どうやら、勇敢な方もいらっしゃるみたいですよ?」

くすくすと声を我慢して笑う沖田は、前方に向けて人指し指を伸ばした。藤堂は、その指に導かれるように目線をずらしていく。


「…本当だ」


藤堂の耳には、上手いのか下手なのかいまいちわからない軽快な鼻歌が聞こえてきた。そして、視界には、道の端に避けていく人々の中、道の真ん中を堂々と歩く手の平大の男が写った。お互い、逆の方向に進んでいるため、男の姿はどんどん大きくなっていく。

「見事な癖毛!!」

「ぷっ!平助、やめてくださいよ!!すれ違う時笑っちゃうじゃないですか!」

向かってくる男に見えないように沖田が笑気に頬を膨らませてバシっと藤堂の背中を叩いた。

「イッテ!!だって事実だろ?!ほら、笑ってると怪しまれるから我慢して!」

背中を叩かれた藤堂は、何時まで経っても笑いの収まらない沖田の長い後ろ髪をグイっと引っ張って歩いた。