――六月四日
この日、土方歳三はいつもより早い朝を迎えていた。
「四国屋?」
まだ鳥も目を覚まさないような早朝、土方の起き抜けでくぐもった声だけが部屋に響いた。
「はい。市中を張っている隊士の情報によりますと、桂を筆頭とした長州の浪士たちが四国屋で会合をするとの事です」
副長室の中では、山崎が髪を結う土方の前で片膝を立てて座り、今日未明に仕入れた最新の情報を報告している最中だった。
「…そうか。やっと動き出しやがったな」
「副長、沖田です」
「藤堂です」
土方が何かを考えていると、下座に跪く山崎の背後から沖田と藤堂の声が聞こえた。
「入れ」
――スス…
「「失礼します」」
二人が同時に声を出したと共に、襖が開かれた。
「はっ!いつもより男前に見えるな」
襖を隔てた廊下には、鉢金を額に巻き、胸元には白い組紐でできた襷をして、腰に差した二本の刀の上からは、すっかり新撰組の象徴となった浅葱色の羽織の袖に白いダンダラ模様を染め抜いた隊服を纏った沖田と藤堂が立っていた。
「久しぶりの御用改めですからね。きっと顔も引き締まってるんですよ」
いつものように馬鹿笑いをしたり、ふざけたりはせず、真面目な顔のまま受け答えをする沖田。隊長の風格を漂わせている。
「一番隊、八番隊共に準備が出来ました。土方副長、ご指示を」
藤堂もまた、緊張した面持ちで形式的に言葉を発する。
「よし。今日の任務はもう解っていると思うが、喜右衛門を捕縛することだ。絶対に殺すんじゃねーぞ!いいな?!」
「「はい!!」」
力強く頷く二人の若き隊長に土方は、暴れて来いと言わんばかりに顎で出動の命令を出す。
それを合図に沖田と藤堂は、まだ日の光が入らない八木邸の廊下を静かに歩いていった。

