幕末異聞―弐―


「嫌な奴。ところで、それ一体なんや?」

楓は、さっきの形のまま放置された綾取りの紐を目で指す。沖田も、思い出したように目をやる。


「…何でしょうね?」

「は?」

複雑に絡まった紐を見て首を傾げる沖田。楓はその姿に対し首を傾げた。

「だってあんた慣れた感じで綾取りしてたやん?!」

「あれでたらめです。私、不器用なんですよ!
適当にやってたらなんかできるかな〜って思って」


「…阿呆かーッ!!」

「あッ!」

楓は思わず沖田の手から白い紐を引っ手繰る。

「綾取りってのはな、こうやるんや!!」

自分の両手に輪をかけた楓は、凄い速さで綾取りの紐を引っ張ったり交差させたりしている。

「楓、綾取りできるんですね!!」

「まあな」

鼻を鳴らして自慢気に作業を進める楓。沖田は、期待に胸を膨らませて動く紐に注目した。


「見ろ!!」

楓が威勢良く完成の声を上げる。


「…楓?」

「何や?素直に褒めてええんやぞ?!」

瞬きもしないで驚いている沖田に楓がふんぞり返った。


「…一応聞きますけど、それ。何ですか?」

「箒!!」


「…あんなに大袈裟に手を動かして出来たものは箒?!!」

違う意味で驚かされた沖田は、立ち上がって作品を誇る楓に向き直る。

「何やねん?!うちの箒に何か文句でもあんのか?!!しばくぞコラッ!!」

「箒には何の文句もありません!が、それを誇っている貴方の神経に文句があります!!そのくらいなら私だって作れますよ!何自慢してんですか?!」

「はぁ?!お前馬鹿か!!見ろこの柄の部分と掃く部分の比率を!
正に芸術作品やんか!そんな事もわからんなんてホンマ馬鹿や!
馬鹿馬鹿馬鹿ッ!!」

「ば「馬鹿はお前や」