幕末異聞―弐―

「ねえ、楓」

「ああ?」

楓は、取り出された白い輪で綾取りを始めた沖田の手を凝視している。

「そろそろ祇園祭が開かれるんですよ」

沖田の手は、白い輪を絡めながら休むことなく動く。

「ああ、だから出店みたいのがぎょうさん並んどるんか」

鮮やかな手の動きを目で追ったまま楓が答える。

「祇園祭、行けますかね?」

慣れた手つきで迷わず何かを作る沖田。白い輪はすでに輪ではなく、他の何かに変化しようとしていた。


「…それはわからん」


沖田の手と手の間で複雑に絡み合う白い紐が楓の内部をざわつかせた。

「ふふ。楽しいんですよ?出店がいっぱい出て、沢山の人が集まって神輿を引いて、夜はお酒が飲めて」

月明かりに照らされた沖田の白い顔は、まるで人形のように美しく見えた。

「そうか」


「行きたいなぁ」

沖田は綾取りをする手を止め、くすくすと笑う。
きっと去年の祇園祭を思い出しているのだろう。

「今年は、楓も一緒に行きましょうね!」

ぱっと明るい笑顔になった沖田の顔が楓に向けられる。

「断る。人ごみは嫌いや」

普通の女の子なら、異性に誘われたというだけでも多少気分が盛り上がるものだろう。やはりここでも楓は例外のようだ。盛り上がるどころか盛り下がっている。

「いいですよ〜!引っ張ってでも連れて行きますから!!」

流石に、楓と一年間同じ屋根の下で生活してきた沖田は、楓の醒めた反応には免疫があるらしく、全くめげない。にっと挑戦的な笑顔を返した。