幕末異聞―弐―

「確かに綺麗やけど…あんた、明日朝早いんやろ?」

「なんだ!知ってたんですか!」

沖田は、白い寝着の上に若草色の羽織を肩にかけながら笑う。

「今聞いてきた。平助も出るらしいな」

(羽織着るほど寒いか?)

今日も寝苦しい夜だというのに、何故羽織を羽織るのか楓は気になったが、聞く必要もないと判断し、触れなかった。

「はい!一と八で出ます。貴方は来ちゃだめですよ?」

「わかっとるわ!!」

「あははは!楓はこういう賑やかなこと好きそうだか言っておかないと来ちゃいそうです」

「ふん。あんたと違って利口やからそんな事せん!」

「自分で利口と豪語する人ってそんなでもないって相場が決まってるんですよね〜♪あ!別に楓の事じゃないいですよ?」

沖田は、業とらしく口元を押さえて言ってしまったという顔を見せる。


「…明日斬られろ!」

「ふふん。この私が商人のオヤジごときに斬れる訳がないでしょう?」

沖田に鼻で笑われた楓は、元々吊り気味だった目を更に吊り上げた。そんな楓の視線などお構いなしに、沖田は袂をごそごそと探り、白い紐でできた大きな輪を取り出した。