「もう祇園祭の時期ですね〜」

「ここに来て丸二年が経つんだなぁ」

「月日が流れるのは早いもんですねぇ」

明るい声で会話をする沖田と藤堂の隊は、祇園祭を間近に控えた八坂神社付近を巡回していた。
この時期の京の町には、いつも以上に活気が溢れている。その中でも、神輿渡御が行われる八坂神社は特に活き活きとしていた。

藤堂は、着々と祭の準備を進める人たちを楽しそうに眺めているが、不逞の輩がいないか目を光らす事を忘れない。この様に大勢の人がいる場所ほど、不審者が忍び込んでいる確率が高いのだ。

「ふふ。そんなに怖い顔してたら逆にこっちが怪しまれちゃいますよ?」

本人は、さり気なく人ごみを観察しているつもりらしいが、沖田から見た藤堂の眼は明らかに吊り上がっていた。

「むっ。総司もたまには真面目に仕事したら?!」

普段はこんな些細なことでむきにならない藤堂が沖田に向けて乱暴に言い放った。

「ゴホッ!ゴホッ…あはは!!私はいつでも真面目ですよ」


「…風邪?」

「いえ、むせただけです」

「そうか。それならいいけど。気をつけてくれよ?明日は大事な仕事があるんだから!」

後ろに従えている隊士たちには聞こえないように、肩と肩がぶつかるくらい沖田に近寄って囁く藤堂。そんな彼の行動に沖田はきょとんとして首を傾げた。


「…もしかして、緊張してる?」



「……馬っ鹿言うな!!俺が緊張しるわけないだろ?!!」

「緊張しるわけって。あ〜、噛んじゃった!」

隣で慌てふためく藤堂の奇妙な動きに沖田は必死で笑いを堪える。後ろを歩く隊士たちには、この数秒の会話で一体二人の間に何が起こったのかわからない。お互いに顔を見合わせて困り顔をした。

「噛んでねーよ!訛っただけだよ!!」

「あっはははは!!江戸っ子のそんな訛り聞いたことありませんよ〜?」

「ぐっ…」


文字通りぐうの音も出ない藤堂に、沖田は今までの笑い顔とは違う温和な笑顔を見せる。