目的地の入り口に到着した永倉と原田は、口論の内容に気を取られる。

「こ、これにはちょっとした理由がありまして!!」

「はぁ?!!こんな中に入るなんてどんな理由ですか?!」

「あの、あとほんの少し待って頂ければ事情を全部話しますので…今だけはお静かにお願いします!!」

「何訳の解らないこと言っているんですか?!とにかく誰か呼んできます!」

「「あ…ちょっ…!!」」


「あの〜、悲鳴が聞こえたんですけどどうかしましたか?」

期を見計らって永倉が業とらしく炊事場の暖簾を潜った。

「曲者でしたら、俺たちが叩っ斬って差し上げましょう!」

続いて、背を丸めながら原田も入ってきた。


「「…げっ!!!」」


「ふふ〜ん。浅野と馬越見〜っけ」

ニヤリと片頬だけで笑う永倉が、女中の向こう側にいる情けない表情の浅野と馬越を指差した。

「それにしても…お前らなんて所に隠れてんだよ?!」

「「いや…結構本気だったんです」」

原田が今にも吹き出しそうになるのを必死に堪えて二人の滑稽な姿を見ている。

「お前らはお釜お化けかッ!!」

永倉が思わずつっこむ。
浅野と馬越の今の状態、それは、二人揃って上半身を大きな釜から出しているのだ。正面からは、下半身がお釜で上半身が人間のように見える。正に妖怪である。

「ふん!これであと一人…」


永倉は勝利が見えてきた賭けに、再びやる気を取り戻したが、それは一瞬で消え去っていった。

「あ。もう刻限じゃね?」

原田が、煙を逃がすための換気口から見える太陽を半目で覗く。太陽は、かくれんぼ開始時の角度から丁度三十度程傾いていた。
つまり、半刻が経ってしまったのだ。


「か…勝った!」

「やったーー!!」

「八っつぁんの奢りだー!」

馬越、浅野、原田は、勝利した事に抱き合って喜んだ。


「くっそ〜…。あいつは何処行ったんだよー!」

悔しさのあまり、永倉は炊事場で思いっきり叫ぶ。




「ふん。うちの勝ちや」


永倉の探し回っていた相手は、湯のみの中の茶柱を見つめながら、優雅な時を過ごしていた。