「総司ッ!!」


「うはっ!源さん!!?」

行きと同じように、女中に頼んで勝手口から帰ってきた沖田を待っていたのはカンカンに怒った井上。

「たわけっ!!何が“うはっ”だ!!今日の指南役はお前だったろうに!!」

「あれ〜??そうでしたっけ?!いやぁすっかり忘れてました!ははは」

沖田が腕を後頭部に持っていった次の瞬間、着流しの袂から何かが転げ落ちた。



「…なんだそれは?」


「あはは〜…」


床に転がったのは和紙から半分はみ出た豆大福だった。沖田は止む終えず、怒られる覚悟を決めて立っていた場所に正座する。


「はあぁぁ…。全く。お前という奴は毎回毎回…」

腕組みをした井上はもう何度目とも解らぬ沖田の逃亡に怒りを通り越して呆れ返っていた。

「あの〜、源さんは何故私が出かけていることが解ったんですか?」

恐る恐る井上の様子を伺いながら沖田は井上に訊く。

「赤城君が教えてくれたんだよ」

「楓が…ですか?!」

(告げ口なんて卑怯なっ…)

「ちょっと失礼し「今赤城君は巡回中だ!!ここにはおらん!」

沖田の行動を先読みしていた井上が動きを止める。



「…そうですか!はは。じゃあ門で待ってます!」

「そんな無駄なことせんでもいい。赤城君が戻ってくるまでワシがたっぷり説教しててやる」

そう言って井上は沖田の着流しの襟をガッと掴み、自分の部屋に引っ張っていった。


(うぅ…帰ってきても絶対お菓子あげませんから!!)

心の中で楓に文句を言うが、現状が変わるわけもなく。結局沖田は井上に小一時間ほど説教を聞かされる事となった。





――桜の花も役目を果たそうとしている四月二十二日


この日の何でもないはずの放火事件から全てが始まる