くじら





「…もしあなたが居なかったら、私は一人でこの暗い中にいたのね。良かったわ、久白君がいて…」



「……いえ」







チリンチリンと
鳴っていた風鈴はやんだ



明かりはつかない。





僕は …彼女に近づいた



「く……」






何か言う前に
彼女の唇をふさいだ。



「ん………ぁ、」




澄さんの吐息が聞こえた




なぜ そうしたのか
分からない






気が昂っていた
だけかもしれない



ただの勘違いかもしれない…







けど……
何かが自分の中で外れた




今まで押さえていた
分からない何かの感情…






ガタと彼女を倒した。



「だめよ、久白君…、」


澄さんは手を振り払った





パッと明かりが
つき彼女の顔が見えた




泣きそうで でも
どこか物欲しそうな顔をしていた



「………だめよ。」





「…何が?」





きっと自分は相当冷たい目をしてたんだろう。



澄さんの声は震えていた




「貴方の未来の為にこんな事してはいけないわ…」






未来…。




僕は彼女から 離れた。
澄さんは着物をなおしていた




「……」



僕は二階に
何も言わず戻った…





その日から何かが
変わってしまった。


なかったことに出来なかった