私は、勉強机に鞄をやや乱暴に置いた。
置いた時に聞こえた音は相当のものである。重すぎんだろ。

宿題が面倒くさい。
そう言っても、あれから逃れられるはずがない。
仕方なしに鞄のチャックを開ける。

「せつ、しゅくだいー?」
奈月が首をこてりと傾げる。
私はただ肯定するだけ。
お気に入りの、迷彩柄の筆箱からシャーペンを出す。
今日の宿題は数学のワークと英語の予習。
何で苦手分野が二つもくるんだ。

まずは数学を片付けることにする。
一次関数とか本当に意味がわからない。
このままじゃあ60点どころか50点かもしれないな。

教科書を見ながら答えを記す。
十分もしない間に、二人は飽きたようだった。

「なにする?」
「なにしよっかあ」

子供二人の会話は聞いてて癒やされるものである。一部除く。
しばらくして、二人はとうとう鬼ごっこ(イン私の部屋)をすることにしたようだ。

「………………おい」
地獄の底からの声、というものをイメージしながら声をかける。
すると、面白いくらい殆どの音が消えた。

頭を抱え、シャーペンを机に放置。そして立ち上がる。
二人は怒られると思ったのか、おどおどとした表情で私を見上げる。

「………………私も入る。走らない遊び、するぞ」

二人と遊んでやるというのは優しさからきているわけではない。
ただの、宿題から逃れる言い訳だ。
しかし二人はきらきらと輝いた表情で笑みを浮かべる。

「せつー! だいすき!」
「すきすきー!」
「わっ、ちょ、飛びかかるな」