さんすうブロック。
上がクリーム色、下が白色の立方体だ。
中には磁石が入っており、ブロック同士がくっつくようになっている。
捨てていないでよかった、と安堵する。
雛子は、作文に一生懸命なようで、こちらに見向きもしなかった。
「雛子」
「なぬぃー?」
ようやくこちらを振り向いた雛子。
さんすうブロックは背後に隠してある。
そして一度咳払いして、出来るだけダミ声で口にする。
「さんすうブロック~」
脳内で、「ちゃらららっちゃらー」と音楽を流すのも忘れない。
「…………せつえもん!」
「雛子ちゃん」
ダミ声のまま彼女を呼ぶ。
私は雛子のためならせつえもんにでも何でもやってやる。
一応言っておくが、シスコンではない。
大切なことなのでもう一度言うが、シスコンではない。
なんてもう一人の自分に意味のない言い訳をし、さんすうブロックを机の上に広げる。
ノートを閉じようとする雛子に、「作文が先」と言う。
雛子はちぇっと舌打ちすると、作文を書く作業に戻った。
小学一年生の勉強は、色々な意味で難しい。
今の私ならば暗算で一発だが、そうはいかない。
そういう時に道具というのは本当に役にたつ。
私は雛子の様子を見守っていた。

