「こんにちは、お嬢さん」

不意に優しい声が背中に聞こえた。

振り返るといかにも優しげなおじいさんが立っていた。

「こんにちは、かわいいお嬢さん。お茶を飲んでいきませんか?」

思わずうなずいてしまった。

大丈夫なのか自分!?

知らない人にホイホイついていっちゃいけないって習わなかったか!?

おじいさんは奥のテーブルでニコニコしながら手招きしている。

仕方ない。もう入っちゃったし。

わたしはおじいさんの言葉に素直に従うことにした。


店内は意外にも暖かい。

おじいさんのいれる紅茶のよい香りがしている。

テーブルには色をおさえた赤いチェックのテーブルクロスがかけられている。

店内は背の高い本棚に埋め尽くされていた。

「冷めないうちに、どうぞ」

紅茶は温かくておいしかった。

先ほどまで冷えていた手足があたたまり始め、じんじんとしびれる。

「お嬢さん、あなたのお名前を聞いてもいいかな?」

悪い気はしなかった。

むしろこの人になら教えてもいい気がした。

「明日音、間宮明日音です。…おじさんは?」

「明日音さん。いい名前だ。ご両親が考えてくださったのかな?わたしは安西黒松。ここの店主だよ」