カラカラに干からびてしまった蝉にそう呟いてみても、当たり前だけど返事はなく。
相変わらず太陽は眩しくて。




「あたしも蝉に生まれたかったな…」




理性を持つのが人間だと言ったって。
この世界には抗えようのない、哀しみや憎しみが渦まいている。

理性を失う人間だって、沢山いるじゃない…。




軽い目眩を覚えながら、ふと周りを見渡した。

スーツを着て歩く大人。
買い物袋を下げたおばさん。
郵便配達のお兄さん。
無邪気に笑う、小さな赤ちゃんと優しい微笑みを浮かべたお母さん。


皆、誰もがこの世界を生きている。


耳には蝉の鳴き声が響いてきた。

それがあたしには「自分は此処にいるんだ」と必死に訴えているかのように聞こえた。



あたしも蝉に、生まれたかった…。
短い期間を自分だけの意志で激しく生きる、そんな蝉に。







暑い暑い夏の一日。
あたしは今夜、罪を犯す――‥。