アタシの口が魅海の口に塞がれる。
思考回路が一時停止する。
アタシの頬に魅海の両手が触れてる。
手の温もりが頬から伝わる。


魅海の口がゆっくり離れていく。
魅海は愛しいものを見るように
アタシを見る。
それは何処となく悲しそうで・・
そんな瞳(め)でアタシを見ないで・・

「お前が・・
隣城家じゃなきゃ・・
よかったのにな・・」


悲しそうな笑みを浮かべアタシを
ギュッ、と抱き締める。
なんだろう・・
敵なのに敵だとは思えないのは。


「魅海?・・
離して・・お願い。
アタシたち敵だよ・・」


魅海は名残惜しそうに
アタシから離れる。
そして、もう一度振り返る。
一瞬、目に光るものが見える。
泣いてたの? どうして?

魅海は薔薇園の出口で止まる。

「俺さ・・お前が・・欲しい。
どんなことしてでも
手に入れるから・・」


すうっと消える。
魅海はホントに鬼の一族なの?
なんかそんな感じしない。
それとアタシは絶対魅海に
会ったコトがある。
しかも、ずっと前ではない、
ここ最近? 何処で?

自問自答が駆け巡る。
魅海との接触。アタシの思考を狂わせる。
ヒュー・・・

風がアタシの身体を通り過ぎる。
アタシは有李栖のところに行く。
振り返り、有李栖を見る。
案の定、有李栖を捕らえていた鬼は消えている。
有李栖はゆっくりアタシの方に
歩いて来る。


「杏南、魅海は鬼の一族。
これは運のいいこと。
鬼の一族の頭首は残酷。
今日は機嫌がよかった。」


ホントにそうだろうか。
一瞬、冷たい目をしていたが
有李栖の言うような残酷な人には到底見えないのだ。
やっぱり今日は機嫌が良かったのだろうか・・・
とりあえずアタシたちは屋敷に戻る。
薔薇たちが何かを伝えるように
サワサワと音を立てるのを横目に・・