国の状況が回復に向かいつつあるとはいえ、この状況を見ると全快にはまだほど遠い事は明らかだ。

そんな、国の負の部分を目にしたくないのか否か、この路地にやって来るのは一般市民とは縁の無いガラの悪い連中ばかりのようだった。

そんな路地を、ディンは盛大にタトゥーを入れた若者達と何度か肩をぶつからせて小競り合いになりながら、ずんずんと進んでいた。

ピンク色の卑猥なネオンで彩られた店が目に入ると、ディンの足取りが緩やかになった。店の前には、浮浪者らしき男が酒瓶を片手にうつむいて座っている。
無気力に座り込んだ男は、汚れたグレーのハンチングを目深に被り、時折、手にした酒瓶を伸びすぎた髭に覆われた口に運んでいた。

ディンは男が座るピンク色の店と隣の店の隙間に入り込むと、壁にもたれかかって煙草に火を付けた。


「よお。まだくたばってなかったか」

「まだまだ、こんな死にぞこないでも需要があるもんでな」

呟く程度の声で言うディンに言葉を返したのは、表に座るハンチングの男だった。

「俺みてぇな『顧客』がゴミみてぇに居るって訳か」

お互いに顔を向けることもなく、壁を背にして独り言のように話す二人。

いかにも怪しい光景ではあるが、このハンチングの男がただの浮浪者でない事だけは解る。


ハンチングの男が、キシシ、と小さく笑って酒瓶を口に運んだ。
最後の一滴を絞り出すようにずずず、と啜ると、瓶を逆さに振って空であることを確かめる。