「なぁ平助。監察方って…どんな仕事しとるん?」


残された楓は藤堂に監察方の事を訊いてみた。

「どんな仕事って…隠密業だよ。
例えば倒幕派の情報収集とか…隊士の監視?とかかなぁ?
監察の人って普段からあんまり姿見せないからわかんないんだよな」

「仲間内で監視か?
ええ気分はしないな」


楓は鼻の頭に皺を寄せ、嫌悪感を現す。

「まぁしょうがないよ。
実際今まで何回か倒幕派の間者が新撰組に紛れ込んだけど、それを突き止めたのは監察方だし。
無きゃならない存在なんだと思うよ?」


「なるほどな。
そういえば平助、新撰組の隊服ができあがってるの知っとるか?」


「えっ?!!知らない!!やっとできたんだ!?」


藤堂は隊服の完成を心待ちにしていたようだった。

どんなに大人びているといっても、やはりまだ幼さが残っているのだ。

「今日届いたんや。あんたの分は部下が預かってるはずやで?」

「ホント?!じゃあちょっと見てくるわ!!
楓、教えてくれてありがと!」


「どういたしまして」


いちいち礼儀正しい藤堂に楓は感心していた。




誰もいなくなった。



秋を告げる鈴虫の声と草木が揺れる音だけが聞こえる。





「うちのこと間者だと思っとるんか?」


誰もいない廊下に楓の声が響く。


「はっ!こそこそしとらんとこっち出てくりゃええやん。
もう二週間近く傍にいるくせにちっとも顔出さんなんて冷たいやん?」