「一体何だね?これは」

「局中法度です。
もはや新撰組はただの小隊ではありません。京都の平和を守り、攘夷派の者たちからお上を守るという重大な任を守護職・松平容保侯から直々に命ぜられたのです。
これからは一切の妥協は許されない。
だが、人は縛るものが無ければ気を抜く生き物です。

つまり、この局中法度を新撰組の法律とすればよいのです」




――文久三年(一八六三年) 九月一二日 祇園



日はとっぷりと暮れていた。

祇園の店々の行灯には灯が灯っている。
夜の祇園は行灯の光がとても幻想的で歩く人を惹きつける力がある。
新撰組筆頭局長・芹沢鴨も祇園の夜景の美しさに魅了された一人であった。

いつもなら、副長の新見をはじめとする芹沢を慕う者たちが酒の相手をするのだが、今日は少し様子が違う。


今日、祇園の料亭で向かいに座っているのは新撰組副長・土方歳三なのである。



「なるほど。重要な話しがあるというから、わざわざ出向いてみればこんなことだったか」


芹沢は顔を紅潮させ、手に持っている杯の酒を飲み乾す。