時刻は丑三つ時を過ぎている。
そんな時間に、一室だけ明かりのついている部屋があった。
「歳、本当にこれを実行するのか?」
「もちろんだ。これが守れねーやつは武士じゃない」
「だが…いくらなんでも厳しすぎやしないかい?土方君」
「サンナン…」
明かりが灯っていたのは近藤の部屋だった。
そこには三人の男の姿がある。
近藤、土方、そして近藤にサンナンと呼ばれた男。
土方は、隣に座っている男を睨んだ。
「山南さんよ、あんたそんな甘い事言ってて新撰組をまとめられると思ってんのか?」
「そういう訳じゃない。ただ、この法度を犯した者をすべて切腹させるというのはどうかと言っているんだ」
土方にはヤマナミと呼ばれるこの男、三人の副長の中の一人で、名を山南敬助という。
近藤らとは武州にいた頃からの知り合いで、京に上るきっかけとなった浪士募集の話を近藤に持ちかけた張本人である。
剣術では、藤堂と同じ流派の北辰一刀流の免許皆伝の実力があった。
文武両道で、とても温厚な性格であることから、隊士たちの間では密かに、
『鬼の土方』『仏の山南』
と呼ばれていた。
「こんな法度を守っていたら無駄死にする隊士がたくさん出てくるかもしれない!」
「あんた本当に何もわかっちゃいねえよ。
この局中法度は、真の武士であるための最低限の五ヶ条だ。守れねえやつは士道不覚悟ということになる。すなわち、真の武士のみを求めているこの新撰組にはそんな武士もどきなんかいらねーんだよ」

