幕末異聞



――プツン


楓の血圧は一気に上がった。

「こンのアマッ!!ど突き倒すぞ?!
なんで初めて会うたやつに薄汚い言われなあかんのや!人の容姿どうこう言う前にあんたのツラ見してみい!!」


まるでそこら辺をウロついている破落戸のように一気に捲くし立てる楓。


「まぁ怖いわぁ。あんたほんに女の子かえ?」

「それ以上下手なこ……と……」



楓は思わず言葉を止めた。

女の顔が堤燈に照らされたのだ。


幽霊かと思うほどに透き通る白くきめ細やかな肌。
上品な口元。涼しげな目元。

黒地の控えめな着物を着ているが、彼女が着るととても映える。


これが本物の大人の女なのか、と楓は開いた口が塞がらない様子。



「芹沢さんがお待ちですよ。ついて着ておくれやす」

呆け面の楓を一瞥して女は元来た道を楓を連れて戻っていく。



(うなじ色っぽいなぁ…ええ匂いするし)


完全に危ない視点の楓を全く相手にしない女。


結局離れにつくまでの間、二人は一言も喋らなかった。