「それは光栄じゃなぁ?」
楓は後ろからの地響きの様な低い声に驚いた。
「何故にこんなところに女がいる?」
楓はゆっくり振り返る。
「……芹沢…鴨…」
楓の目の前にいるのは紛れもなく芹沢鴨だった。
楓はまず、芹沢の図体の大きさに言葉を失った。
常人から見れば、原田も十分長身でいい体格をしている。
しかし、芹沢はそんな原田よりも更に一回り大きいのだ。
吊りあがった小さい半開きの目に四角い顔。全身から圧迫感を放っている。
「ほぅ?わしも随分有名になっているようだな。そち、名を申せ」
「…赤城楓」
「ふむ。楓か。いい目をしているな」
楓は黙ったまま自分よりも倍くらい大きな芹沢を睨んでいる。
「よし!気に入った。楓よ、後でワシの部屋に来い!可愛がってやるぞ?」
「芹沢局長!実はこいつ、土方副長の小姓なんですよ!だからそういうことは…」
「小姓!!!?」
楓は芹沢から目を放し、左之助の方に振り返る。
小姓とは、局長や副長の身の回りの世話をする人間のことである。
(…土方の小姓やて?!)
楓にとって最悪である。
一体、なんでこんな嘘をついているのかわからない。
「なに?土方の小姓だと?」
「そうですよ。芹沢さん」
庭に面した縁側の廊下から声がした。