新撰組は土方の考案した職務系統別隊分けによって組織されていた。

中でも、副長助勤(組長)、監察方は隊の中でも特に優秀な人材を起用していた。

平隊士は大部屋で集団生活をするが、副長助勤には、一人一人に個室が与えられる。
すなわち、平隊士の中でも特に新米隊士である楓に個室が与えられるなど、楓が男であれば考えられないことだった。



「十番隊の組長選びは明らかに間違うたな」

庭の竹竿に洗った道着を干しながら楓は鼻で笑う。


「お前ほんっとかわいくねーなー」


そんなくだらない会話をしていると、俄かに屯所内が慌ただしくなってきた。



「…何だ?」


血相を変えて廊下を行き来する隊士に原田が声をかけた。

「おい!!何かあったのか?!」

隊士は眉を八の字にして見るからに困っているようだった。


「あ…原田先生!それが…芹沢局長がお帰りになられたようなんです」

「芹沢局長が?!」

原田はめんどくさそうに頭を掻いた。


「壬生浪士組筆頭局長・芹沢鴨……か?」


「なんだ!お前芹沢局長のこと知ってんのか?!」

原田は驚いた。


「知っとるもなにも、芹沢の大阪での傍若無人ぶりは有名やで?
“壬生狼の親玉”言われて嫌われとったわ」