永倉以外の三人は周りの様子を見る。

確かに隊士達は、指導する人間が不在となったため困っていた。

「まずは朝稽古!な?少ない時間なんだから、ビシッとやろうや。
あ!左之、俺も行くからよろしく」

「えぇっ!!!新ぱっつぁんまで…!?」

永倉はそう言って自分の教えている隊士達の指導に戻った。


(新八…やりよるな)

楓が密かに感心していると、誰かに肩を叩かれた。



「まだ正式な配属先が決まっていないので、貴女の指導は私が受け持ちます」


「…自分、傷大丈夫なん?」

沖田の顔にはまだ痛々しく頬に痣、口には切り傷が残っていた。

「こんなもの怪我の内に入りません。楓だって、人のこと言えないでしょ?」


「む…」


楓の目尻の横も、血は止まっているが、周りが赤黒く腫れていた。


沖田は気遣うように微笑んでいたが、やがて悲しそうな表情を浮かべ、

「我を見失っていたとはいえ、女性の顔に酷い傷を負わせてしまいました…。
本当にごめんなさい」


「アホか。勝負始まったら男も女も関係あらへん。
それにうちはあんたに気遣ってもらうほど軟じゃない」

楓の言葉は、遠まわしに

“二度と女扱いするな”

と言っていた。


沖田はそれを察して

「そうでしたね」

と笑った。


「総司、はよせなみんな困っとんで」

楓はそう言いながら竹刀を一本沖田に投げた。


「私の指導は甘くありませんよ?」

「上等や。受けて立ったるわ」


太陽がやっと顔を出し始めた頃、八木邸は『新撰組』としての始めての朝を迎えた。