「あ〜あ。そんな物騒なもの取り出しちゃって〜。
今日くらい見えないところに置いときなよ!」

三人の姿を傍で見ていた藤堂が腰に手を当て少し不機嫌そうな声を出す。

「なんや?平助は飲んどらんのか?」

楓の隣に腰を下ろす藤堂の顔は以前の『角屋』での宴会の時とは違い、普段と全く変わっていなかった。

「へへ。まぁ無礼講とは言ってもやっぱり俺らみたいな若いやつらが後始末しなきゃいけないからさ」

藤堂は残念そうな顔で苦笑する。

「あんた組長なんやからそんなこと考えなくてもええんとちゃうんか?平に任せればええやろ」

「う〜ん。そうはいかないよ。みんなこの一年働き詰めだったしさ。今日くらい何にも考えないで楽しんでほしいんだ。それに俺酒あんまり飲めないし!」


「…損な男やな」

あまりに謙虚な藤堂に対し、楓は半分呆れていた。

「まぁね!雰囲気だけで十分楽しいからいいんだよ!」

「まぁ、そういう楽しみ方もあるか」

明るく笑い飛ばす藤堂を見た楓は思わず吊られて笑顔になった。



「さて。行くかな」

スッと刀と酒の入った酒壷を持って立ち上がる楓。

「どこ行くの?」

藤堂は小首を傾げて楓に尋ねる。


「ちょっとな」

意味深な微笑を残し、楓は空に舞う桜の花びらと共に消えていった。


「なんだ??」

藤堂の前にはぽつんと楓の使っていたお猪口だけが残されていた。