――四月中旬 鴨川


京都に日本の四季の中で最も美しい季節がやってきた。
冬には凍っていた鴨川も今では穏やかにせせらぎ、訪れる者の心を和ませている。
土手の上に植わっている幾本もの桜は花と花の間が見えなくなる程に咲き乱れて茶色の幹を覆いつくす。
そんな桜と鴨川の間に挟まれた河川敷には風情を楽しむ花見客が大勢訪れていた。


その中でも特に盛り上がっている集団があった。


「わっはははは!!皆の衆!今日は無礼講だ!思う存分羽目を外すといいっ!」


“うおぉぉぉぉ!!!!”


地を揺らすような男達の雄叫びが遠くまで響き渡る。

桜には不似合いな男だらけのむさ苦しい集団。
新撰組である。
河川敷の一角を占領する彼らの手には酒の入った瓢箪や徳利が握られていた。


「オラッ!!飲め飲め〜!!がはははッ!」


「…何で上半身裸なんや」

「こいつ飲むと露出狂になるんだよ!あははッ」

出来上がりつつある隊士たちとは少し離れ、桜の幹に寄りかかって桜の花を肴に一人酒を楽しんでいた楓に上半身裸の原田と頬を赤くした永倉がやってきた。
楓の持っているお猪口に永倉が酒を注ぐ。

「楓〜!!お前も裸になろうぜ〜?!気持ちいいからよ〜」

腹の古傷を露にしたまま原田は千鳥足で楓に近づく。

「そだ〜!!脱いじまえ〜!!」

完全に酔っている永倉も徳利を振りながら悪ノリをする。

「別に脱ぐのは構わんが、それを見届ける前にあんたらの首獲らせてもらうで?」

楓は右手で自分の共襟を掴み、左手でチャッっと傍らに置いてあった大太刀の鯉口を切る。

「「何でもないです!!すんませんでしたーーッ!!」」

楓の一言で完全に酔いから醒めた二人はよたつきながらも慌てて逃げていった。