「ふふ。そしたら本当に自分は一人だと思い込んでしまったんです。
そう思ったら何のために剣を振るのか解らなくなっちゃって…。そこで生まれたんです。
私の“餓鬼”が」



――ただ人を斬るためだけに存在する沖田総司が


「何の目的もなく人を斬り続けてたら、いま人を斬っているのは私なのか“餓鬼”なのか段々わからなくなってきました。
そんな自分が怖かったけど誰にも言えなくて…。
そんな時に貴方がきっかけを作ってくれた」


楓は隣にいる沖田の顔を横目で見ながら寒さを凌ぐため手を擦り合わせる。

「思い出したんですよ。自分は本当は弱い人間だって事。一人でなんて生きていけないんです。それを次々と色々な人が教えてくれました」



「…んで?あんたの答えは出たんか?」


沖田は真っ直ぐ前を向いていた顔を楓に向け、満ち足りた表情を見せる。


「もちろん!!私は“沖田総司”を愛してくれる人たちに命をかけます!!」


いつものような軽い笑顔ではない、紛れもなく武士としての力強い笑みを浮かべる沖田に楓はすぐに顔を逸らしてしまった。


「男女が一丁前にかっこええこと言うな」

素直な言葉を口に出さない楓に沖田は“貴方らしいや!”と言って大笑いした。



「……うちも」


「はい?」


笑って出た涙を指で拭っている沖田に楓は聞こえるか聞こえないか位の声で話しかける。



「うちも…もう一度人と関ってみよ思う……」


沖田から見てほぼ後ろを向いてしまっている楓の表情は確認できない。
しかし、茶色の髪から僅かに覗く耳が真っ赤に染まっているのに沖田は気づいた。

「ふふ!いくらでも協力しますよ!!」


「…わかった」


更に小さくなった楓の声だが、沖田にはしっかり聞こえていた。




「もう春が来ますね。今年は楓も一緒にお花見しましょうね!」


「…酒が飲めるなら」



鴨川の満開の桜を想像しながら二人は静かに去ろうとする冬に別れを告げた。