「ただ今戻りました!!」
『佐久間』で小腹を満たし、屯所に着くなり礼儀正しく門前でしっかり腰を曲げお辞儀をする山野。
後ろでその姿を見ていた楓は山野を追い越し、我が物顔で屯所内に入っていく。
一人残された山野は楓を追うこともなく、門を潜り、玄関で草鞋を脱ぐ。
「山野――!!」
バタバタと騒々しく廊下を走ってやってきたのは、先に帰っていた原田と永倉であった。
「んで?!!楓とはどうだったんだ?!」
「うまくいったのかよ?!!」
催促するように両肩をバンバン叩かれ、山野は痛さに顔を顰める。
「いたたたッ!あの、何も言いませんでした!!」
「「……は?」」
意味不明な山野の言葉に二人の動きは止まった。
「お二人には協力して頂いてとても感謝しているんですが、やっぱり僕は楓とよき仲間でいたいんです!!どうもありがとうございました!」
山野は永倉と原田に向き直り、丁寧に頭を下げ、大広間へと歩いていった。
その背中は原田たちと別れた時よりも一回り大きくなっているように見える。
「…な、なんだぁ?!」
「まぁ、いいんじゃないの?よくわかんないけど男を磨いてきたみたいだし」
いつまでも目を丸くして驚いている原田に永倉は軽く背中を叩いた。
こうして一人の隊士の密かな恋は終わりを告げたのだ。

