「あの〜、すみません」
「はい?」
店先の掃除をしてたお絹は後ろから声を掛けられた。
「この中に赤城楓と山野八十八っていますか?」
「いますけど…誰ですか?」
お絹の前には見るからに気性の荒そうな大男と物腰の柔らかい男が立っていた。
「俺らは楓と同じ新撰組の者だ!」
「はあ…どうぞこちらです」
いまいち怪しい二人だが、新撰組にこのような男がいてもおかしくはないだろうと思い、お絹はすんなり店内に入れた。
店に入ったのは永倉と原田であった。
二人はまず、楓と山野のいる位置を確かめ、二人の死角になるような席を探して素早く座った。
「あの、ご注文は?」
「「みたらし二本で」」
「はあ…」
お絹はおかしな二人に首を傾げながら注文を伝えにお勝手へ入っていった。
「んで?何喋ってんだ?!」
「シー!黙って聞けって」
永倉は落ち着きの無い原田を黙らせ、二人のいる方向に全神経を集中させる。
「あの…以前にも誰かとここに来たことあるんですか?」
「いいや?いつも一人やけど。もしかしてさっきのお滝の話か?」
あっさり言いたいことを当てられてしまった山野は首を縦に振ることしかできなかった。
「あれはな、お絹たちとは前に屯所の前で会ったことがあるんやけど、その時一緒にいたのがあんたの組長さんやったんや。お滝はそのこと言っとるんやろーな」
「沖田…組長ですか…?」
「あんたの組長やろ?」
山野は常々沖田を心から尊敬していて、自分もいつか彼のようになるたいと思っているが、なぜか今は彼の名前を口にすると胸がモヤモヤした。
「赤城さんは、沖田隊長と仲がよろしいですよね!」
「…そうか?」
「そうですよ!隊の中でも有名ですよ?!」
――あの二人は結ばれてるのではないかと…
山野は実際隊内で流れている噂の最後の部分をどうしても口にすることは出来なかった。
(胸が…痛い…)
「あ…赤城さんは…沖田組長をどう思われてるんですか?」
自分でも野暮なことを聞いたと思う。しかし、聞かないではいられないのだ。山野はありったけの勇気を振り絞って核心を突く質問を楓に投げかける。

