幕末異聞



――四条堀川 茶屋『佐久間』


「えぇ?!!楓ッ!どうしたの?!」


『佐久間』で働く楓の女友達、お絹は衝撃の光景に手に持っていたお盆を落とす。

「どうしたって…甘味食いに来たんやけど」

「そうじゃないわよ!その隣に居る人!!」

店先には楓ともう一人、やたら美形の男が立っていた。

「だって楓って言ったらいっつも一人でここに来るじゃない?!なのに今日は人が一緒…おまけに男の人ー?!」

あまりの衝撃に手を口に当ててよろけるお絹。楓の隣に立っている山野はすかさず支えに入る。

「はぁ…。お絹、この人は同じ新撰組の隊士や。たまたま道で会ったついでに一緒に来ただけや」


「へ?隊士の方?」

お絹は自分の身体を支えてくれている男の顔を見た。

「はい。僕は山野八十八といいます。赤城さんにはいつもお世話になっています」

人のよさそうな笑顔で山野はお絹に自己紹介をする。


「な…な〜んだ〜!そうだったんだー!!てっきり楓に恋人ができたのかと思ったわよ〜!」

お絹は気の抜けた顔で山野の手から自力で姿勢を整えた。


「こ……こここここ恋人だなんて…そんな「あるわけないやろ?!」

恋人と言われ舞い上がる山野とは反対に楓はお絹の勘違いを冷静に否定し、店の中へと入っていく。


「おいでやす…って楓ちゃんじゃない!」

「おお!久しぶりやな」

「久しぶりもいいとこよ〜!ずっと来てくれないから心配したのよ〜?!」

「へへ、そう簡単には死なんから心配いらんよ。単に金がなかっただけや!」

店の中で親しげに話しているのはお絹の親友のお滝。楓がこの『佐久間』に来るようになってから仲良くなった。

「今日もいつものね」

楓の好物が葛餅だと知っているお滝は、お勝手に入ろうと店の奥へ進む。