「…?!土方さんが?私を?」
正に藪から棒な井上の言葉に、沖田は酷く狼狽していた。
「当たり前だよ!誰が見ても解ることだ!!
若先生だってもし今のお前の顔を見たらどうしたのかと聞くに決まってる!」
「…近藤さんも?!」
「そうだよ!!あの方たちだけじゃねえ。山南さんだって新八だって左之だって平助だって、みーんなお前ぇのこと気にかけてるはずだ!」
「…皆さんも…私を…」
――こんな私を?
「一日悩んで答えの出ねー事はいくら踏ん張ったって出ねーんだ。さっさと誰かに話すのが利口な人間ってもんだよ!」
さり気なく沖田を前に進ませる言葉を残し、井上は道場へ向けて歩き出した。
「源さんは?!」
遠ざかる井上に聞こえるように沖田は立ち上がって声を張る。
井上は振り返ったが、その顔は茹でたタコのように見事な赤に染まっていた。
「馬ッ鹿野郎!!嫌いなヤツにこんなこっ恥ずかしい事ぁ言わねーよ!!空気読めっ!」
その後も何やらブツブツ言いながら井上は去っていった。
「…ふふ…は…あっははははははは!!」
縁側で一人、沖田は人目も気にせず腹を抱えて壊れたように笑い出した。
大きな声を上げて顔をくしゃくしゃにして笑う沖田の顔は、さっきとは比べ物にならないほど自然なものだった。
――私の中には“餓鬼”がいる。
でも別にいいんだ。
大切な仲間を守るために必要ならば、拒む事はないのだ。
私はこの身を賭けて彼らの盾になり剣になろう。
私に巣食う“餓鬼”と共に。
「よし!!山野さん探しを再開しなきゃ!」
沖田は天に向かって垂直に腕を伸ばし、大きな伸びをする。
中庭の雪はもう半分以上が水となって土に吸収されていた。
きっと近々その土を割って新しい命が芽吹くだろう。
――長かった冬が終わるのだ

