「ごり押しって…これただの尾行じゃないですかぁ」
そう、この三人はただ町をぶらぶらしているわけではないのだ。前方約十メートル先には赤城楓の後ろ姿が見えている。つまり、楓が屯所を出た時から後ろに付いて歩いてきたのだ。
「さあ!頑張ってこようか山野君!」
「…はい?!わあっ!!」
ドン!っと笑顔の永倉に勢いよく背中を押され、楓に数メートル近づいた山野。
「?」
「わ…あの……」
楓の鋭すぎる五感はたった数メートル近づいただけの山野の気配を察知した。山野と楓の目が合う。原田も永倉もこんなにすぐに気が付かれるとは思わず、物陰から山野を心配そうに見守る。
「え〜と…あんたは確か山野君?」
楓は自信なさ気に山野に確認した。
「あああ、あの…の…」
「?」
「どうしました?!!」
「「「…」」」
混乱した山野から発せられた意味不明な珍発言に楓はもちろん、二人の様子を見ている原田・永倉も絶句した。
「…あんたがどーした?」
答えようのない質問に楓の顔は引き攣っている。
「えっ!??いや…ああああ、赤城さんはっ、ここで何をしていらっしゃるんですか?!!」
((お〜い。噛み合ってないぞー))
物陰から見ている二人は山野の動顛具合に唖然としていた。
「…え?うちか?!うちはこれから知り合いの茶屋に行こう思って歩いてたんや」
「そ…そうだったんですか!!」
会話はそこで終了してしまったにも関らず、何故か一歩も動かない山野。

