幕末異聞


――ガラガラ…


「あれ?」


“やあぁぁ!!!”“たあぁッ!”

――パシーンッ!ドタドタ…


「すみませ〜ん!!」

「おや?沖田先生!どうかなされたんですか?」

自主稽古中の道場の戸を開けたのは、相変わらず刀を挿さず、水色の着流しに紺の羽織を羽織った沖田であった。

「稽古中ごめんなさい。山野さんはもういませんか?」

「八十八ですか?…はて、自分たちがここに来たときにはもういませんでしたが?」

「あっしらが道場に入ったのは一刻ほど前ですから、もうかなり経ってやすね」

「う〜ん。おっかしいなぁ…。確か稽古に行くんだって言ってた気がしたんですけど。まあいいや!ありがとうございました!どうぞ続けてください」

「「失礼します」」

二人の隊士は言われるままに再び稽古を始めた。
それを邪魔しないように沖田は静かに道場の戸を閉め、母家に向かった。


「どこ行っちゃったのかなぁ…」


母家を外から覗いて見るが、山野らしき人物は見当たらない。


「何やってんだ?」

「ああ!土方さん!丁度いいや!山野さん見かけませんでした?」

縁側から煙管を咥えた土方が母家の様子を伺う沖田を変に思い、声を掛けてきた。

「山野?あいつなら確か原田君と永倉君と一緒だったと思うが?」

「そうですか!ありがとうございます。土方さんもたまには役に立ちますねぇ!」


「それ酷くねぇか?」

「あははッ!では、山野さん探しに行ってきます」

頭上高くヒラヒラと手を振りながら沖田はまず永倉の部屋を目指した。




「いたいたいた!」

「ほら山野!ぼさっとしてねーで歩け!!」

「やっぱりよくないですよ…こんなの」

沖田が山野を探しているのと同じ時、当人は原田と永倉に連れられ、賑わう京都の町を歩いていた。

「何言ってんだよ!いいか山野、恋はごり押しが大事だ!自分がどんだけそいつを好きか見せ付けてやるんだよ!」

「だから女に逃げられるのか」

永倉は今までの原田の女関係を思い出しながら納得していた。

「なんだと!?」

「いや、なんでもね」

原田はよく聞こえなかったが、何か自分の事で言われていると思い、永倉に大声を出す。