「…総司?」


自分の目の前に居る男は本当に自分の知っている沖田総司なのか?藤堂はそんな不安を消し去るために友の名を呼んだ。

「“餓鬼”が棲んでいるんです」


「…がき?」


名前を呼ばれても返事をしないで独り言のように話を進める沖田に藤堂の不安はさらに募る。沖田は相変わらず無表情のままあらぬ方向に視線を向けている。

「そう。刀を抜くと現れるんです。私の弱い部分の塊…」




――全てに眼を瞑るんだ。


敵は無機質な豆腐。

血は雨。

刀は…そう、竹の刀のような子どもの玩具。



「…総司?!しっかりしろよ!なんか今日おかしいぞ?!!」

藤堂は思わず沖田の両肩をがしっと掴み、小さく前後に揺する。


「確かに。今日の私はおかしいや!あはははッ!!」


まるで憑き物が落ちたようにいつもの笑顔を取り戻す沖田。

「さあ!早く片付けないと日が暮れちゃいます!!」

沖田は再びテキパキと手際よく掃除をし始めた。
おそらく自分がこれ以上の詮索をしても沖田の性格上笑って誤魔化すだろう。


(自分から話に来るまで待つしかないか…)

これ以上考えても何の答えも出ない。そう感じた藤堂は、沖田に習って掃除を再開した。