「土方副長。私は新撰組の一隊士としてこの命を捧げましょう」
「!!」
土方は驚いた。楓が自分の事を“土方副長”と呼称した事も要因の一つであったが、何よりも楓から送られてくる強い意志を湛えた茶色の眼がとても美しく見えたのだ。
(なんだこいつぁ…?)
まるで何かの一線を越えて大きな一歩を踏み出したような強い眼差しに“偽り”は全く無かった。
楓の態度を目の当たりにした土方にはもう楓を疑う余地は無い。
息の詰まるような視線を浴びながら、土方はやっと声を出した。
「お前の意思はわかった。俺はお前を信じる」
「??!」
今度は楓が驚かされた。まさか土方の口から人を“信じる”という言葉が出てくるとは思っていなかったのだ。
しかもその表情は…微笑。楓は初めて嫌味以外の土方の笑顔を見た。
(気持ち悪ッ!!!)
楓は全身に虫唾が走るような感覚に襲われる。
「あの…笑わないでくれへんかな?ちょっと気持ち悪いんで」
「ああ?!!んだとこのガキッ!!!俺が笑っちゃいけねーのかよ?!」
「そりゃアカンに決まっとるやろ!その顔は笑顔が最高に似合わん顔やん!」
「てっめェ!!調子に乗りやがって!」
「やんのかコラッ?!!」
――バンッ!!!
二人が火花を散らす中、誰かが机を乱暴に叩く音が店に響き渡った。
「喧嘩なら外でやっておくれやす!!」
そこには二人を叱る襷をした恰幅の良いおばさんがいた。
「「すみません…」」
おばさんの気迫に負け、二人は素直に店を出ていった。

