「はいお待ちどうさま!」
――ドンッ!!
「…何から突っ込むべきですかね?」
「…」
――ズズー…
「冷めちまうぞ?」
「…意味解らんわーーッ!!何でうちがあんたと仲良うニシンそば食わなアカンねん?!!」
楓が机を叩いた衝撃で丼が揺れる。
「俺はお前に貸しがあったんだよ」
「ああ?!何の貸しや?」
「お前のせいでそば食いっ逸れた」
「うちの知らんところで勝手に貸しを作るな!」
土方は楓が入隊した時に誤った情報を耳にしたせいでその日の昼飯を食べられなかった。その事をまだ根に持っていたのだ。
当然、今回のニシンそばは楓の奢りという事になる。
「冗談じゃない!なんで強制的に連れ込まれた蕎麦屋の勘定をうちが持たなあかんねん!?」
「今日金を持ってねーんだ」
「…あんたは鬼か?!!」
これ以上文句を言っていると折角の蕎麦がのびてしまうので、楓は仕方なく目の前の蕎麦を平らげる事に専念した。
「そういや最近山崎君見ぃひんけどどうかしたんですか?」
箸を土方に向け、いかにも嫌味な声で挑発する楓。
「オメー如きに人員費やしてんのが馬鹿らしくなったんだよ。間者なら自然とボロが出てくんだろ」
喧嘩っ早いはずの土方が全く挑発に乗ってこない。
それどころか、まともに楓の質問に答えている。
(なんや?遠まわしにもう疑ってない言うとるんか?)
「出るボロなんか持っとらん。
…んで?今日は何の用や?!」
土方の紳士的な対応に完全に調子を狂わせた。楓はニシンに豪快にかぶりつく。
「別に用なんてねェ。ただ奢ってもらいにきただけだ」
土方は丼に残った最後の汁を飲み干し、お茶を口に含んだ。
「お〜い。上司が部下に集るなんて恥ずかしくないんか?!」
「いつもお前が好き勝手暴れた事後処理してんの誰だと思ってやがる」
「…」
もっともな事を言われ、流石の楓も閉口する。
「…お前、何であの時屯所に戻ってきた?」
「?」
いきなり振られた思い出したくない記憶の話に楓の箸が止まった。

