――二月一日

まだ霜も解けぬような早朝、新撰組と会津藩にとって悪い知らせが届いた。

監察方の情報によれば、四条大橋に会津と新撰組の誹謗が記された高札が立てられていたというのだ。
実行犯は未だ調査中との事。


昨夜も遅くまで書類の山を整理していた土方はこの知らせが届くつい二時間程前にようやく床に就いたところだった。


「おっ!どうしたんだ歳?!…それは目開いてるのか?」


「……がんばって開けてはいるはずなんだがな」

監察方が持ち帰ってきたこの厄介事を今後どう調査していくか、方針を話し合うため、近藤の部屋を訪れた寝起きの土方。

「わははっ!せっかくの色男が台無しだ!その顔じゃ女は落とせんな」

「ふんっ」

土方は部屋に入るなり、腫れぼったい仏頂面のまま乱暴に近藤の向かいに座る。


「今回の件だが…どうも倒幕派の突発的な行動とは思えねぇ」

机に向かって字の練習をしていた近藤は動きを止め、腕組みをした。

「ふむ。確かに。この前の赤城君の持ってきた情報といい、今回の事といい、どうもいやな予感がするな」

「ああ俺もだ。屯所内でもここ最近、長州の間者を何人か処分している。一応監察方にも動いてもらってはいるが収穫はないようだ」

「そうか。しかしこの一件、どうやら長州藩士の仕業とは言い切れそうにないのだ」

「何故だ?」

「先日、会津藩邸に出向いた時の話だ。
今まで倒幕派の主体は長州藩と言われてきた。実際に行動を起こしているのもほとんどが長州藩士であるからそれは事実だ」

土方は政治の方は近藤に任せているので、この話は初耳だった。
近藤は更に続ける。

「だがな、最近では新たに尊王倒幕を唱える藩が出てきたという噂だ。それも一つじゃねぇ」