外はいつの間にか灰色の雲が充満し、みぞれが降り始めていた。
二人は息を白くしながら八坂神社の方向へ歩いていく。
「外なら邪魔がおらんから思う存分に刀振り回せるわ」
さっきの決着をつけようと楓は再び刀を握り締める。前を行く永倉はそんな楓の様子に真っ白なため息をついた。
「俺はお前相手に抜く気なんかない」
「さっきは勝てる言うたやないか!」
外に出ても尚、楓の熱は醒めない。
「はぁ…。少し落ち着けよ。
お前と殺りあって一体誰が得するんだよ?生き残ったって屯所で腹斬らなきゃなんないだろ?」
永倉は懐に手を突っ込んだまま歩みを止めて楓と向き合った。
「確かに」
意外とすんなり認めた楓に永倉は思わず噴出した。
「あっははは!お前本当にコロコロ表情変わるなぁ!」
そういう永倉も、茶屋で怒っていた時とは全く別人のような温和な表情をしている。
楓は気が抜けたように刀から手を引き、永倉と同じく懐に手を突っ込む。
「なぁ楓。俺さ、お前が他人を知ることを本当に“邪魔なもの”だと思ってる様には見えないんだよ」
「…」
楓は俯いたまま永倉の話をじっと聞く。
「むしろ、お前が一番人を背負っていく重みを知っているんじゃないかって」
――そして失う辛さも…
「勝手なことほざくな。帰る」
「うん。ごめん」
一言ボソリと呟いた楓は何かに耐えているような苦悶の表情を浮かべている。
そのまま方向転換をし、壬生の方角に歩き出した楓を永倉が引き止める。
「楓!これだけ言っとく!!」
聞く気があるらしく、楓は耳だけを声の方向に向ける。
「お前ももう、みんなの“重り”になってるよ」
「…ふん」
ニコッと笑った永倉の顔を横目で見つつ、楓は再び歩き出した。
みぞれは既に雪に変わっていた。