「傷つきたくないのか?」
「!!?」
キッと隣に座る永倉を睨みつける楓。だが、その目には力が無かった。
「やっぱりお前は弱いよ」
「違うッ!!!」
小さな茶屋の中に楓の怒鳴り声が響く。そこにいた全員が楓に注目する。
「違わない。お前は弱さを力でねじ伏せてきただけだ。力だけあれば生きていけるような道に逃げてきたんだよ」
「ええ加減にせんと斬るぞ?!!」
楓は横に置いた大太刀の柄を手で握る。店に緊迫した空気が流れた。
「抜いてもいいけど、外出てからにしろ。それと、今のお前じゃ俺に勝てないよ」
取り乱す楓とは逆に終始冷静さを保つ永倉。
「何やて?」
「お前とは抱えているモノの重さが違う」
「?」
「お前とは違って俺には守らなきゃいけないものがある。最早この命、俺だけのものじゃなくなってる。
お前のように生きることにただしがみ付いているわけじゃないんだよ!」
「テメェッ!!!」
楓は刀を鞘から抜いた。
刀の先端は永倉目掛けて振り下ろされる。
――ガキッ!!
永倉はそれを咄嗟に刀の鍔で受け止めた。
力の押し合いでギリギリと楓の刀の先が小刻みに震える。
「ここで抜くなっつったろ!」
今まで永倉の怒った場面を見たことのない楓はその気迫に一瞬怯んだ。
刀を一旦永倉から遠ざけ、楓は辺りを見回した。
茶屋の中は呼吸の音すら聞こえない。客は事の成り行きを固唾を呑んで見守っていた。
「ちっ」
ここの客達を怯えさせているのは自分だと気づいた楓は仕方なく刀を鞘に収める。
「少し歩こう。おばちゃん!騒がせて悪かったな」
永倉は茶屋の店主の元に行き、謝罪の気持ちとして銭を数枚渡して楓と共に店を出た。