「ちょうどええ。お三方、自主練に付き合うてくれへんか?」

「断る」

楓の誘いに即答したのは以外にも齋藤であった。

「何で?平隊士が上司に稽古頼んじゃいけないんか?」

楓は挑発するように竹刀で肩を叩きながら鼻で笑う。

「お前が普通の隊士なら喜んで受けよう。しかし、今のお前はそこら辺に山ほど転がっている破落戸と変わらない。そんな人間に稽古をした所で何も身につかない。失礼する」

「悪いが俺も乗り気じゃねーんでな」

齋藤と原田は楓を一瞥して道場から去っていった。

残るは入り口で何も言わず柱に寄りかかっている永倉のみとなった。


「あんたが相手してくれるんか?」

「くく。そりゃ無理だ。俺も一と同じ意見なんでね。今のお前は危うすぎる」

永倉は草履を脱いで道場内に入り、腰を屈めて気絶している隊士達の怪我の具合を見た。

鼻血を出している者もいれば、腕に内出血があり腫れ上がっている者、足から血が出ている者までいた。


「随分派手にやってくれたなぁ。これじゃいざという時使い物になんねーわ」

「言っとるやろ。弱い人間はいらん」


「弱い…ねぇ」


永倉は真っ直ぐ立ち上がり、楓を睨んだ。

「弱いってんなら、今のお前が一番弱いだろうな」

「何やて?」

楓の眼光が更に鋭くなる。無音の道場の中の空気が一変した。

「まぁ落ち着け。どうだ?久々に外に出ないか?」

「雪は嫌いや」


「温かいもん奢ってやるよ」



「…」