「なんかよー、最近隊士の数減ってねーか?!」

「近頃冷えるからねぇ。風邪でもひいたんでしょ」

午後の剣術指導を終えた永倉と原田が寒空の下、汗を十二分に吸った道着を井戸端で洗っていた。

「けッ!!ひ弱な奴らだ!それでも男かってんだ!」

「そういや総司も咳してたなぁ。何でもないとは言ってたけど」

「は〜ん?まぁ、あいつは昔っからひょろひょろしてたからな!風邪ひくなんて今に始まったことじゃないんじゃね?!」

「確かに」


「「だははははっ!!」」



「それだけではないようだぞ?」


「「ギャーーッ!!」」


ぬっとどこからとも無く二人の前に現れたのは同じく指導を終えた齋藤であった。


「も…もっとましな登場の仕方ないかなぁ…」

「こんのやろー!!びっくりするだろうが!!どーすんだよこれ?!」


原田は驚きのあまり手に持っていた水入りの盥をひっくり返してしまい、ずぶ濡れになっていた。

「普通に来たつもりだが?」

彼は稀に隠密業も任されるため、常に気配を消して行動しているのだ。


「…そうだな。一の普通はそれだもんな。
んで?それだけじゃないってどういうことよ?」

洗った道着を竿に掛けながら永倉は齋藤に理由を聞いた。

「あれ」

「「あれ?」」

齋藤は言葉で説明することはせず、先ほどまで稽古をしていた道場の方向を指差した。
永倉と原田は一度顔を見合わせ、とりあえず齋藤の指示する道場に向かう。
しかし、どんなに近づいてみても竹刀のぶつかり合う音や、掛け声は一切聞こえない。人の気配すら感じられないのだ。
そんな場所に一体何があるというのか?
二人は、開いたままの道場の入り口から中の様子を伺った。