「いつまで付いて来る気だ?出てこい!」
――ガタガタッ!!
早朝の静寂に包まれた京都の町に齋藤のよく透る声が響く。
すると、長屋と長屋の隙間から大きな音を立てて何かが飛び出した。
音の正体は折り重なるようにして沖田と齋藤が待ち構える大通りに出てきた。どうやら一人ではなさそうだ。複数の固体を見て二人は更に警戒を強める。
「ちちち、ちょっと待ったっ!!」
手を必死に伸ばし、腕が千切れるんじゃないかと思うほど大手を振る物体。
「女性?!」
沖田は驚いて一瞬姿勢を崩す。
二人を静止しようとする声は男性では決して出せない甲高い声だった。
「三人ともだな」
齋藤も目を細めて遠くで対峙しているモノが何か確認する。齋藤の目にはいかにも町娘の格好をした三人の女。見た目も気配もこちらの命を狙っているわけではなさそうだ。
「私たちに何か御用ですか?!」
躊躇いなく三人に近づいていく沖田。
段々と迫ってくる沖田に女三人は小さく固まった。
「気づかれちゃったわよ!どーするっ?!!」
「お、お絹!赤城楓ってあの人じゃないの?!」
「全然違うわよ〜…」
「ん??赤城楓?」
三人の会話を小耳に挟んだ沖田は楓の名前を聞き逃がさなかった。
「あなたたち、楓をご存知なんですか?」
自分には敵意が無い事を主張するように沖田は軟らかい笑顔を三人に向ける。
「「「・・・・はい??」」」
怯えている三人は、沖田の思わぬ言葉に情けない声を出す。
「あ、赤城楓を知っているんですか?」
お絹が恐る恐る沖田に尋ねた。
「はい!楓は新撰組の隊士ですから良く知っていますよ!」
ニッコリと笑う沖田の表情に三人の恐怖感はほぼ消えていた。

