幕末異聞


翌朝、霜の降りている地面を踏みながら沖田と三番隊組長の齋藤一は部下数名を引き連れ早朝の巡回に出ようとしていた。


「はー…寒いですねぇ」

白い息を吐きながら沖田は懐に手を引っ込め、腕組みをする。

「そんなところに手を入れているといざという時刀を抜けないぞ?」

「へへ、一さんが助けてくれるから大丈夫です」

「横暴だ」


この齋藤一という男は長身で、無駄口を叩かず、温厚で物静かな青年である。以外にも、底抜けに明るい沖田と歳が近いこともあって気が合うようだ。歳は二十二歳で、剣術では沖田よりも強いという話がある程の腕前。
浪士組として京に残ることを決めた二十四名の中の一人であった。


二人が隊士を従えて屯所を出ると、齋藤は視線を感じた。
さり気なく辺りを見回すが誰も居ない。


「どうしました?齋藤先生」

三番隊の隊士が齋藤の様子を伺う。

「いや、何も」

自分の思い違いだと思い、沖田と他の隊士が待っている場所へ歩き出した。



――実は齋藤の勘は当たっていた。

屯所の曲がり角からは三つの視線が送られていたのだ。


「ち、ちょっと危なかったじゃないのっ!!なにあの人!私たちが見てたのに気づいたっての?!」

「そそそそんなわけないじゃない!だってこっからあそこまでどんだけ離れてると思ってるの?!」

「で?お絹ちゃん、あの中にいたの?!」

三人は、齋藤の鋭い視線に肝を冷やした。

「よくわかんなかったけど、いなかったと思う…」

「でももっと近くで見なきゃ断定はできないわよね?」

「よし!追いかけてみようっ!」


三人というのは、“赤城楓”を探しに来たあの『佐久間』の三人娘だった。

「ここまできたら意地でも見つけてやるわ!」

「お…お滝ちゃんなんか燃えちゃってる」

後を追って走り出したお滝に圧倒されるお絹。

「まぁいいじゃない!私の鼻が確かなら、あの中に上玉が必ずいるはずよ!!」

お滝の後を追い、美代も走り出した。


「美代ちゃん…完全に主旨がずれてきてるよぉ。
待ってー!!」


お絹も出遅れたが、二人の後に付いて行く。