幕末異聞



――パンッ


自室の襖を乱暴に開けてお目当ての火鉢を探す。が、部屋中を見回してもどこにも見当たらない。


「あいつまたっ!!」

襖を開けたままドスドスと荒い足音をたてながら隣の部屋へ。


「火鉢持ってくな言うとるやろ男女―!!」

破壊せんばかりの勢いで楓は断りも無く襖を開ける。部屋の中からは醤油のいい匂いが漂っていた。


「部屋に入るときは一言断りを入れてから入るのが礼儀ですよ!本当に無作法な人だなぁ!!」

「人の所有物勝手に部屋から持ち出すんは無作法じゃないとでもいうんかコラッ!!」

「何を言うんですか。これは隊費で買った火鉢です。たまたま貴方の部屋にあっただけですよ!」

「ああいえばこういう。全く困ったお嬢さんやなっ!!
大体うちの火鉢持ってかんとあんた自分の火鉢持っとるやん!何が不満なんや?!嫌がらせか?!!後輩いびりか!!?」

「私のは部屋を暖める用です。こちらのは餅を焼く用」


「どっちも火鉢に変わりないやろーーーッ!!!」


隣の部屋にいたのは、肩に羽織を二枚掛けている沖田総司であった。
鼻息を荒くして怒鳴る楓を冷静に丁寧な言葉であしらう沖田。


「あ、お餅食べます?」

どこまでも自己中心的な沖田に疲労困憊の楓。


「いただきますとも」


とりあえず沖田の部屋に入り、餅を焼いていない方の火鉢に手を翳す。寒さで悴んだ手はすぐにジンジンと疼き始めた。
どうもこの瞬間が苦手だ。

「くすくす。貴方にも苦手なものがあったんですね!」

膨らみかけた餅をひっくり返しながら沖田は笑う。

「うるさい」

収縮した血管の中を血液が一気に駆け巡る感覚に耐えながら楓は無愛想に答える。


「今日はなんか変わったことありましたか?」

何かおもしろい話を期待する沖田。



「なぁ総司。うち女に見えへんか?」