幕末異聞



――ガコッガコッ…


「ざぶい…」

「寒いってお前…。真冬に裸足で下駄はいてるからだろう?」

四条烏丸を通りすぎ、巡回を終えて壬生の屯所に帰る途中の新撰組隊士たち。藤堂と楓は日が昇っても寒い京都の厳しい冬を思い知らされていた。


「なぁ、さっきの助けた女の子」

「あ?そんなんおったか?」

「つい半刻前の話でございますが。ほら!あの斬られそうになってたとこをお前が助けただろ?!」

楓の欠落してしまった記憶を呼び起こそうとする藤堂。


「あ〜…?ああ!!あの河原町での子か?」

「そう!それっ!!」

楓はぼんやりではあるが少し思い出したようだ。

「あれがどないしたん?」

「いやさぁ。あの子、俺たちが立ち去る前にお前に名前聞いてたじゃん?
あれ、お前に惚れたんじゃね?!」

藤堂が締まりの無い顔で楓の二の腕を肘で突付く。

「はぁ?!自分正気か?うちは女や。子どもと間違われることはあっても流石に性別まではないやろ」

刀の鞘で鬱陶しい藤堂の肘を叩く。

「わかんないよ〜?袴はいてるし。そういえば、あの子結構可愛かったよなぁ」

色恋事に興味のある年頃の男女が恋愛話に花を咲かせると思いきや、盛り上がってるのは藤堂だけで、楓は鼻の下を伸ばす藤堂に自然と距離を置いて歩いていた。
他の隊士も藤堂のデレデレとした顔に思わず苦笑する。


「あ〜、早く火鉢を抱え込みたい…」


藤堂を完全無視で屯所の玄関に上がった楓は、今日の出来事を副長に報告する前に暖をとろうと、冷たい床の廊下を爪先立ちで走り自室を目指す。