幕末異聞



――お絹の話はこうである


朝、団子を作るための水を汲んできて欲しいと『佐久間』の主人に頼まれ、お絹は桶を持ち、清水寺まで歩いていった。
無事水を汲み終わり、四条河原町を通って帰路を急いでいると、二人の浪人にぶつかってしまったらしい。
お絹は急いで謝ったが男たちは許してはくれず、お絹に刀を振り上げた。
その時、精悍だが中性的な顔立ちの男が、持っていた大きな刀で助けてくれたというのだ。





「その男、風貌は?」


美代が胡散臭そうな表情でお絹を見る。

「茶色い髪と茶色い瞳をしていたわ。髪は髷を結って無くて、すごく無造作に下ろしてあった!背は…私より少し大きいくらいだったかしら」

「本当に新撰組っていったの?」

今度はお滝が質問する。

「ええそうよ!名前は確か“赤城楓”って言ってたわ!!後ろにお侍さんを従えてたから多分、とても位の高い方よ!」

興奮気味に答えるお絹と美代・お滝の温度差は激しい。


「絶対詐欺だよそれーーっ!!」

「そうよ!!キザ過ぎるし何より胡散臭いのよその男!!」


美代とお滝にがっしりと腕を掴まれ攻められるお絹。だが、お絹も負けてはいない。


「ほ、本当だって!!確かにそう名乗ったのよ私の殿方様はっ!!」


暫し凍りついた空気が三人の間に流れる。



「「私の殿方様…??」」


美代とお滝の目が点になる。

「あ…っ!!えっと…あはは」

お絹は自分が口走ってしまった言葉を誤魔化そうと必死に頭を巡らすが、何も出てこない。


「アホかーー!」

お滝が奇声を上げる。


「まぁまぁお滝ちゃん。私たちはこの子の話に聞いた“赤城楓”しか知らないんだから、どうこう言える筋合いではないわ」


「「…美代ちゃん」」


お滝とお絹は姉貴分である美代の言葉に静止する。


「お絹ちゃん」

「は、はい!」


「会いに行きましょう。“赤城楓”に」