幕末異聞


――ギィ…ギィ……


静まり返った屋内で妙な音が響く。床を踏む度に軋む木の撓る音。意識すればするほど音が出る。


「とりあえず、この部屋から順に踏み込んで行きましょう」


屋敷内の廊下を先に歩く原田がある部屋の襖の前で止まった。

「よし、私は左から入ろう。原田君は右へ」


両開きの襖の左右に各々体を寄せる。そして、同時に刀を鞘から抜く。
二人は顔を見合わせ、お互い準備が出来たことを確認しあう。



――ススス…


静かに襖が開けられる。
原田と山南は中の様子を伺う。


「しょっぱな当りですよ」


原田が消えそうな声で隣に居る山南に話しかけた。


暗い部屋の中では誰かまでは判断できないが、確かに四人いる。部屋にはそこら中に空になった徳利が転がっていて、脱いだ着物も放ってある。

「足場が悪そうだ」

部屋に立ち込める酒の匂いに顔を歪める山南。

「関係ないっすよ」

と言いながら原田はズンズン部屋の中へ入っていく。



「…………ぬ?」


その時、部屋に寝ていた男の一人が原田の足音に気づいてしまった。

起き抜けの半開きの目が原田を捕らえる。



「やっべ!!」


原田の声と、彼が持っている白い閃光を放つ刀を見て男は覚醒したようだ。