幕末異聞



袴の裾は雨と泥で重くなっていた。
必死に走ってはいるが、うまく前に進めない。


(自分、何でこない必死こいて走っとんねん?!他人事やろ?)


自分の行動と気持ちに矛盾を感じながらも楓の足は止まらない。



「はは…山崎君と競争や…」


頭から水を被ったようにずぶ濡れで屯所を目指す。



(お梅は…芹沢が死んだらどうすんのやろ?)



ふっと浮かぶ考え。

楓には計り知れないお梅の感情。



「はぁ…はぁ……ずっと笑ってて…欲しいんや…」


息を切らせながら独り言を漏らす。



――幸せになってほしい



(変な女の勘が働いてなきゃええけど…)


万が一の出来事だが、お梅が今夜芹沢の元に居ないことを願いながら楓は屯所への最後の曲がり角を曲がった。