幕末異聞


思わず土方が“ゴホン”と咳払いをし、再び自分に注意を向けさせる。


「正面から気づかれないように入る。俺たちは奥の間の方へ、山南さんたちは玄関付近の部屋を探る」


土方が粗方の説明を終えると、山南の顔を見た。

「それぞれ女が一緒かもしれねぇ。だが、今夜は見逃すわけにはいかん。今日、この屋敷に居る人間は全て切り捨てる!」

釘を刺すような言葉に思わず山南は、


「何故だ?!」

と食ってかかる。
そんな一触即発の状況を黙って見つめる原田と沖田。

「今夜の出来事は全て、長州の人間がやったことにする」

「!!?」

「考えてみろ。ただでさえ新見の事で隊内の派閥意識が強くなってる。そんな時に対立派閥である俺たちが殺したなんて言ったら益々混乱するだろう。
一先ずここは長州藩の人間の仕業にしとけば隊内の混乱は最小限に抑えられる。そのためには、今日のこの事を俺たち以外、知っている人間がいちゃいけねーんだ」

土方がそこまで先のことを見越して計画を立てていたことに三人は驚いた。
その完璧とも思える計画に山南は、

「了解した」

とだけ言った。



「では参りましょうか。鬼退治へ」



沖田が先頭をきって屯所に向かい歩き出す。
土方・山南・原田もその後に続く。



仏光寺通りから左に曲がり、坊城通りに面した八木邸の門の前に立つ。


「では、ここで別れよう」

土方の言葉に、全員が円を作り頷く。
それを合図に土方・沖田の二人が門を潜る。その後を山南・原田が追う。


四人は刀を握り締めて闇に包まれた屋敷内へ消えていった。