幕末異聞

廊下の突き当りを曲がって姿を消した左之助を見送ると、楓は厠へは向かわず、元来た道を戻る。
そして、さっきまで自分が飲んでいた部屋の襖を開けた。


楓は襖から部屋全体を見回す。
先刻と変わりなく盛り上がる隊士たち。
一見何も変わっていないように見えるが、そうではなかった。


(原田・沖田……局長はいる)


大勢の人の中からすぐにいない人物を割り出した。それを確認すると襖を閉め、再び廊下に出て今度は隣の部屋の襖を覗ける程度開ける。



「…いない」


楓は出口に向かって走り出した。


平隊士および副長助勤は大広間で飲んでいる。だが、副長と局長はその隣の部屋で飲んでいたはずだったのだ。それがいつの間にか近藤局長が大広間で隊士たちと飲んでいて、隣の部屋はもぬけの殻となっていた。


「なんやおかしい思っとったんや」


楓は大雨の中傘も差さずに大太刀片手に角屋から屯所への道を駆け抜ける。


すると、頭上から何かが落ちてきた。

楓は止む終えず急停止する。