「……ん?」
視線を畳に落としてみると、足元には無数の髪の毛。そのまま視線を楓に向ける…
「お前なんかパッツンの刑やっ!!!」
そう言い放つ楓の手には、彼女が愛用している大太刀が握られている。
しかも鞘から抜いた状態で。
「…え?刀…おまっ……もしかして……」
「ぶふっ…わははははは!!!」
狼狽する藤堂に対し、永倉は耐えていた笑いを堪えきれなくなって爆発させる。
「なんだそれー!!」
「く…組長それは……!!」
「いいぞ赤城――!男前!」
凍っていた空気が一変し、一気に盛り上がりをみせる。隊士たちの興奮は最高潮に達した。
「ひーっ…死ぬぅー!へ…平助、自分の額触ってみ?」
「…額?」
永倉に言われるまま、藤堂は自分の額を摩る。
「……あれ??」
一瞬で自分に異変が起きていることに気づいた。
前髪が無い。
本来、藤堂は肩の長さに切り揃えた後ろ髪を後頭部の真ん中辺りの高さで結んでいる。そして、前髪は眉より少し下の長さで、無造作に下ろしてある。つまり、額を触ろうとすれば絶対に前髪に手が触れるはずなのだ。
「それでもう当分前髪気にせんでよくなったで。うちに感謝しい」
楓は口の端だけ上げて鼻で笑いながら、ようやく大太刀を鞘に収めた。
「か……楓―ッ!!!」
半泣きしているような表情をしながら叫ぶ藤堂。
そう、楓は恐ろしいほどの太刀捌きで藤堂の前髪を額上半分の長さで一直線に切ったのだ。
叫ぶ藤堂を尻目に楓は徳利を持ち、落ち着いて酒が飲める場所を探す。

