「成長を急がにゃならん時だってあるんや。あんた等のしようとしてること、大方の予想はつく。別に口出ししようとは思っとらへんから安心しぃ」


「はは、参ったなぁ。君は本当にすごい子だね」


眉を八の字に寄せながら山南は軽く笑うが、楓は真面目な顔を崩さず尚も山南を凝視する。



「…まぁうちには関係あらへんことやさかい、どうでもいいわ」


楓は再び歩を進め、山南の横を通り過ぎて家の中へ入っていこうとした。




「楓君!!」




楓のいる方向へ山南も向きを変える。

背中越しの声に楓は振り返る。



「私は、武士なんだ」



いつもの山南とは違う雰囲気に楓は戸惑った。
だが、山南が言わんとしていることを楓は少し理解していた。



「うちにはよう解らんけど、武士の意味を履き違えたらあかんでしょ?
あんたにはあんたの武士道がある。人の武士道に合わせてもそれはあんたの武士道やない。まぁ、組織の中でそれを貫くのは難しいやも知れんけどな…」



そういうと楓はいつも履いている下駄を脱いで奥の間へ消えていった。


山南は、楓の背中を見送ると、秋の空を仰いで思いっきり深呼吸をした。